令和8年度の鍼灸療養費改定|月16回以降50%から考える鍼灸院経営

令和8年度の、はり・きゅう療養費の料金改定が実施されました。

今回の改定率はプラス0.60%です。

はり・きゅうの施術料は、1術が1回1,650円、2術併用が1回1,820円へ引き上げられました。

物価が上がり続ける中で、施術料が引き上げられたことは、鍼灸院にとって無関係ではありません。

しかし、今回の改定で私が最も気になったのは、数十円の値上げではありませんでした。

同一患者に対する月16回目以降の施術について、施術料、訪問施術料、電療料を所定料金の50%で算定する仕組みが入ったことです。

2術併用の施術料が50円上がったことよりも、月16回目以降は半分になるという線が引かれた。

この記事では、この制度変更を単なる値上げのニュースとしてではなく、これからの鍼灸院経営を考える材料として見ていきます。

令和8年度の鍼灸療養費改定はいつから?

令和8年度の、はり・きゅう及びあん摩・マッサージ・指圧に関する療養費の新しい料金は、令和8年7月1日以降の施術分から適用されています。

厚生労働省の通知では、はり・きゅうの主な料金が次のように示されています。

初検料

  • 1術:2,000円
  • 2術併用:2,320円

施術料

  • 1術:1回1,650円
  • 2術併用:1回1,820円

1術とは、はりまたはきゅうのいずれか一方を行う場合です。

2術とは、はりときゅうを併用する場合です。

従来の施術料は、1術が1,610円、2術が1,770円でした。

今回の改定により、1術は40円、2術は50円引き上げられたことになります。

このほかにも、訪問施術料、往療料、施術報告書交付料、明細書発行加算などが定められています。

ただし、実際の算定では、施術内容や各種要件を確認する必要があります。本記事では鍼灸院経営を考えるため、主に施術料と月16回目以降の逓減を取り上げます。

改定率プラス0.60%だけを見てはいけない

今回の、あはき療養費の改定率はプラス0.60%です。

厚生労働省の第38回専門委員会では、令和8年度診療報酬改定における医科の改定率と、経済・物価動向などを踏まえて、全体としてプラス0.60%の水準が決定されたと説明されています。

改定率がプラスであることや、施術料が引き上げられたことに目が向くのは当然です。

しかし、2術併用の施術料で見ると、引き上げ額は1回50円です。

一方で、同じ改定の中に、月16回目以降を50%とする算定ルールが入りました。

私は、この二つを別々に見るべきではないと思います。

料金は少し引き上げる。

その一方で、一定回数を超える頻回な施術には、明確な逓減を設ける。

今回の改定は、単純な値上げではなく、どのような施術をどこまで療養費として評価するのかという制度設計の変更でもあります。

月16回目以降は何が50%になるのか

厚生労働省の通知では、同一患者に対する月16回目以降の施術について、次の料金を所定料金の50%に相当する額で算定するとされています。

  • 施術料
  • 訪問施術料
  • 電療料

「鍼灸療養費のすべてが一律に半分になる」と説明すると正確ではありません。

50%逓減の対象として通知に明記されているのは、施術料、訪問施術料及び電療料です。

また、月16回目以降は療養費そのものが支給されなくなるわけでもありません。

第16回目以降について、対象となる料金を所定料金の50%に相当する額で算定する仕組みです。

例えば、2術併用の施術料は通常1回1,820円です。

月16回目以降に該当する施術料は、50%に相当する額で算定するため、単純に施術料だけを見れば910円になります。

1術の施術料1,650円であれば、その50%は825円です。

ここで重要なのは、月16回を超えた部分ではなく、通知が「月16回以降」としていることです。

つまり、同一患者の同一月における第16回目から逓減の対象になります。

実際の請求では、施術内容、加算、訪問施術の区分、各種算定要件などを通知で確認する必要があります。

私は値上げより「月16回目以降50%」が気になった

2術併用の施術料は、1,770円から1,820円へ50円引き上げられました。

50円でも上がらないよりはよい。

そう考えることもできます。

しかし、私は数十円の値上げよりも、月16回目以降に50%という仕組みが入ったことの方が気になりました。

これは、一定回数を超える頻回施術に対して、制度上の評価を明確に下げる仕組みだからです。

もちろん、月16回以上施術を行っている鍼灸院が、すべて不適切だという意味ではありません。

患者様の状態や施術の必要性は、それぞれ異なります。

今回の改定についても、必要な施術そのものを一律に否定していると解釈するべきではないでしょう。

ただし、鍼灸院を経営する立場から見れば、

一定回数を超えた施術について、通常と同じ料金では評価しない

という線が制度上に設けられた事実は、軽く考えられません。

「16回」という数字より、逓減の仕組みができたことが重要

今回の基準は月16回目以降です。

だからといって、将来必ず12回や10回に変更されると断定することはできません。

現時点で、将来の回数がさらに引き下げられると決まっているわけではないからです。

しかし、経営者として考えたいのは、今回の数字が10年後も16回のままとは限らないということです。

療養費の料金も、算定ルールも、今後の議論や制度改定によって変わる可能性があります。

今回、月16回目以降に50%という逓減の仕組みが設けられたのであれば、

  • 将来も同じ回数なのか
  • 逓減率は今後も50%なのか
  • 別の算定要件が加わる可能性はないか
  • 自院の経営が制度変更にどこまで耐えられるか

を考えておく必要があります。

これは「次は必ず回数が減らされる」と不安をあおる話ではありません。

制度の中で施術を行う以上、料金や算定ルールを自分では決められないという現実を、経営計画に入れておくという話です。

鍼灸療養費はいくらになるのか

今回の改定後も、2術併用の施術料は1回1,820円です。

単純に施術料だけを計算すると、同一患者へ月10回施術した場合は、

1,820円×10回=18,200円

です。

これは施術料だけを単純計算した金額です。

実際には、初検料、電療料、訪問施術料などの算定や、患者様の一部負担、保険者への請求などが関係するため、そのまま院の手元に残る利益を示す数字ではありません。

それでも、経営を考える材料にはなります。

1回の施術に必要なのは、施術時間だけではありません。

  • 問診や状態確認
  • 施術前後の説明
  • カルテの記録
  • 療養費支給申請書などの事務作業
  • 保険者への請求
  • 返戻や照会への対応
  • 同意書や施術報告書に関する管理
  • ベッドや備品の準備、清掃
  • 院の家賃や光熱費
  • 消耗品費
  • 移動を伴う場合の時間

なども必要です。

施術料だけを見て「安い」「高い」と感情的に判断するのではなく、1回の施術に何分かかり、その前後にどれだけの業務が発生し、最終的にどれだけの利益が残るのかを考える必要があります。

月16回施術した場合の単純計算

2術併用の施術料だけで計算してみます。

第15回目までは1回1,820円、第16回目は50%に相当する910円で算定すると、

1,820円×15回+910円=28,210円

となります。

仮に第16回目も通常料金であれば、

1,820円×16回=29,120円

です。

施術料だけを単純比較すると、第16回目に910円の差が生じます。

17回目、18回目と続けば、50%で算定される回数が増えます。

もちろん、これは2術併用の施術料だけを取り出した単純計算です。

実際の療養費請求を、この計算だけで判断することはできません。

しかし、一人の患者様へ頻回に施術する経営モデルほど、今回の逓減が売上に与える影響は大きくなることが分かります。

一人鍼灸院は時間単価を考えなければならない

一人で経営する鍼灸院では、院長が施術できる時間に上限があります。

1日に対応できる患者数も限られます。

従業員を増やさない限り、院長の時間を無限に増やすことはできません。

その限られた時間を、どの料金で、どのような施術に使うのかは、経営上の重要な問題です。

療養費では、院長が自分の技術、経験、施術時間、地域の家賃などをもとに、自由に料金を決めることはできません。

料金は公定価格です。

さらに、一定回数を超えた場合の算定方法も、自院の判断では決められません。

物価、家賃、電気代、消耗品費などが上がっても、自分の判断だけで施術料を上げられないのが療養費制度です。

だからこそ、

施術料はいくらか

だけではなく、

その料金で、院長の限られた時間を使い、院の経営を継続できるのか

まで考えなければなりません。

柔整療養費にも制度変更は続いている

制度変更の影響を受けるのは、鍼灸療養費だけではありません。

柔道整復療養費でも、これまで料金や算定ルールについて繰り返し見直しが行われてきました。

令和8年度改定でも、初検料、再検料、施療料などの料金と算定ルールが見直されています。

鍼灸と柔整では対象となる施術や制度の仕組みが異なるため、単純に同じものとして比較することはできません。

それでも、療養費に共通しているのは、

  • 料金が制度によって決められる
  • 算定要件がある
  • 請求方法が定められている
  • 制度改定によって経営条件が変わる

という点です。

「今の料金とルールが、この先も変わらず続く」と考えて経営計画を作るのは危険です。

制度変更があっても院を続けられる形を、平常時から考えておく必要があります。

保険施術や療養費制度を否定しているわけではない

ここまで読むと、療養費を使った施術を否定しているように感じるかもしれません。

私は、保険施術や療養費制度そのものを否定しているわけではありません。

患者様の経済的な負担を抑えながら、必要な施術を受けられる制度は重要です。

療養費を活用することで、施術を継続できる患者様もいます。

問題は、保険を使うことではありません。

鍼灸院の売上と経営を、料金も算定ルールも自分で決められない制度だけに預けることです。

制度が変わったときに、

  • 売上がどれだけ変わるのか
  • 施術時間を維持できるのか
  • 人件費や家賃を支払えるのか
  • 患者様への対応を変える必要があるのか
  • 院を継続できるのか

を考えていなければ、改定のたびに経営が揺れます。

だから私は自費という柱を持つ

自費施術であれば、何でも自由にしてよいという話ではありません。

患者様に提供する施術内容、必要な時間、院の経費、地域性などを考え、院として責任を持って料金を決めます。

その代わり、自院が提供する価値と経営条件をもとに、自分で料金設計を考えられます。

  • 保険施術だけにする
  • 自費施術だけにする

という二択にする必要もありません。

療養費制度を適切に利用しながら、自費施術という別の柱を育てる方法もあります。

例えば、

  • 保険適用外の相談に対応する
  • 時間を確保した自費施術を用意する
  • 院長の専門性を生かした施術を設計する
  • ホームページで施術方針や料金を説明する
  • 自費施術を必要とする患者様に選んでもらう

といった考え方です。

自費の柱を作る目的は、保険患者様を切り捨てることではありません。

制度が変わっても、院の経営を継続し、必要な患者様へ施術を提供し続けるためです。

自費施術は料金を上げれば完成するわけではない

「制度に頼らないために自費を増やす」といっても、料金表に自費メニューを追加するだけでは患者様に選ばれません。

患者様は、

  • どのような悩みを相談できるのか
  • なぜこの施術が自費なのか
  • 保険施術と何が違うのか
  • どのくらい時間をかけるのか
  • 料金はいくらなのか
  • どのような考えで施術するのか

を確認しています。

自費施術を選んでもらうには、ホームページで丁寧に説明する必要があります。

価格を決めることと、その価格に納得してもらうための情報を伝えることは、セットです。

自費の柱は、メニューを作った瞬間に完成するものではありません。

施術内容、料金、説明、ホームページ、予約導線を一つずつ整える必要があります。

【集客一人のひとりごと】私が気になったのは50円ではない

今回の改定で私が気になったのは、鍼灸2術が50円上がったことではありません。

月16回目以降は50%という「線」が引かれたことです。

今回は16回です。

しかし、経営者として考えなければならないのは、その数字が10年後も16回とは限らないということです。

もちろん、将来必ず12回や10回になると決まっているわけではありません。

まだ決まっていないことを、事実のように書くつもりもありません。

ただし、今回の改定で、一定回数を超えた施術に対して50%という逓減の仕組みが設けられた事実は残ります。

私は療養費を否定しているわけではありません。

今も必要な制度だと思っています。

ただ、自分では価格を決められず、自分ではルールも決められない制度だけに、鍼灸院の経営そのものを預けるのは怖い。

だから私は、保険を使う・使わないという二択ではなく、制度が変わっても経営を続けられる自費の柱を持つことが、これからの鍼灸院には必要だと考えています。

まとめ|50円の値上げより、16回目以降50%という線を見る

令和8年度の、はり・きゅう療養費改定では、改定率がプラス0.60%となりました。

施術料は、1術が1回1,650円、2術併用が1回1,820円へ引き上げられています。

一方で、同一患者に対する月16回目以降の施術については、施術料、訪問施術料、電療料を所定料金の50%で算定する仕組みが入りました。

今回の改定を、

施術料が数十円上がった

というニュースだけで終わらせてはいけません。

一定回数を超える施術に、明確な逓減が設けられた。

その制度設計が、自院の経営に何を意味するのかを考える必要があります。

療養費制度は必要です。

保険を利用する患者様を否定する必要もありません。

しかし、公定価格と算定ルールを自分で決められない以上、制度変更の影響から完全に逃れることはできません。

保険か自費かという単純な二択ではなく、療養費を適切に利用しながら、自費という別の柱を育てる。

制度が変わっても、患者様への施術と鍼灸院の経営を続けられる形を作ることが、これからの一人鍼灸院に必要ではないでしょうか。

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📝 この記事を書いた人

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柔道整復師・鍼灸師

20年間の臨床歴とグループ院の経営経験を生かして、現在兵庫県明石市で完全自費の「西新町鍼灸整骨院」を2026年4月に開院。

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