整骨院や鍼灸院の経営では、患者単価がよく話題になります。
柔道整復療養費だけでは単価が低いから、鍼灸療養費を組み合わせる。
自費メニューを追加する。
物販や回数券を提案する。
患者様一人から得られる売上を上げるために、さまざまな方法が考えられています。
私も過去に、20分程度の柔整施術に15分程度の鍼灸施術を組み合わせ、合計35分ほど施術している院を見たことがあります。
柔整と鍼灸を組み合わせれば、患者単価は上がります。
では、実際に時間単価まで計算すると、どのくらいになるのでしょうか。
令和8年度の療養費料金を使い、柔整2部位と鍼灸2術を組み合わせた場合をモデル計算すると、合計は約3,000円です。
35分で約3,000円なら、1時間あたりに単純換算すると約5,200円になります。
この記事では、特定の院の請求が適法か違法かを論じるものではありません。
保険施術を否定する記事でもありません。
柔整と鍼灸を組み合わせたときの患者単価だけでなく、院長の限られた時間をどれだけの売上と価値に変えられているのかを考えます。
本記事の約3,000円はモデル計算です
最初に、計算の前提を明確にしておきます。
本記事の柔整側の金額は、打撲・捻挫に対する後療において、温罨法と電療を算定できる条件を満たした2部位の施術を想定したモデル計算です。
すべての患者様に一律で算定できる料金ではありません。
柔道整復の保険対象は、骨折、脱臼、打撲、捻挫などに限られます。単なる肩こりや筋肉疲労への施術は保険の対象になりません。
骨折と脱臼についても、緊急の場合を除き、あらかじめ医師の同意が必要です。
鍼灸療養費にも対象疾患や医師の同意などの支給要件があります。
したがって、
柔整施術と鍼灸施術を同じ日に行えば、誰でも約3,000円請求できる
という意味ではありません。
柔整と鍼灸の双方について、それぞれの施術内容と支給要件を満たしていることが前提です。
実際の請求は、最新の通知、算定基準、保険者の取扱いなどを確認してください。
柔整2部位はいくらになるのか
令和8年度の柔道整復療養費改定では、打撲・捻挫の後療料が1部位1回550円になりました。
同時に、2部位目の施術については80%で算定する逓減が導入されています。
温罨法料は80円、電療料は46円です。
温罨法料や電療料についても、2部位目は80%で算定されます。
今回は、打撲・捻挫の後療において、温罨法と電療を算定できる条件を満たしているケースとして計算します。
1部位目
- 後療料:550円
- 温罨法料:80円
- 電療料:46円
合計は676円です。
2部位目
2部位目は80%で単純計算します。
- 後療料:550円×80%=440円
- 温罨法料:80円×80%=64円
- 電療料:46円×80%=36.8円
合計は約541円です。
柔整2部位の合計
676円+約541円=約1,217円
柔整2部位に対して後療、温罨法、電療を行ったモデルでは、合計約1,217円となります。
これはあくまで計算条件を限定したモデルです。
受傷日からの日数、施術内容、負傷部位、近接部位、長期・頻回施術などによって算定の可否や金額が変わるため、すべての2部位施術が約1,217円になるわけではありません。
なぜ2部位目が80%になったのか
令和8年度改定では、1部位目の後療料が505円から550円へ引き上げられた一方、2部位目は80%で算定する仕組みが導入されました。
厚生労働省の専門委員会では、一つの施術所で請求のほとんどが2部位になっている事例などについて意見が出されています。
改定資料でも、2部位を含む複数部位の施術、特に請求のほとんどが2部位以上となっている施術所について、今後も実態を把握していく方針が示されています。
これは、2部位の施術そのものを否定する話ではありません。
患者様に二つの負傷があり、それぞれ療養費の支給要件を満たしていれば、必要な施術を行うことがあります。
ただし、制度全体としては、1部位目を引き上げる一方、2部位目には逓減を設ける方向へ変わりました。
ここでも、料金と算定ルールは施術所が自由に決められないことが分かります。
鍼灸2術を加えると合計約3,000円
令和8年度改定後の鍼灸施術料は、次のとおりです。
- 1術:1回1,650円
- 2術併用:1回1,820円
1術は、はりまたはきゅうのどちらか一方を行う場合です。
2術は、はりときゅうを併用する場合です。
先ほどモデル計算した柔整2部位の約1,217円に、鍼灸2術の1,820円を加えると、
約1,217円+1,820円=約3,037円
となります。
柔整だけの場合と比較すれば、鍼灸2術を加えることで患者単価は上がります。
しかし、約3,037円は院の利益ではありません。
療養費の総額をモデル計算した数字であり、患者様の一部負担、保険者への請求、施術や事務に必要な経費などを考える必要があります。
また、柔整と鍼灸にはそれぞれ異なる支給要件があります。
単価を上げるためだけに施術を追加したり、支給要件を満たさない施術を保険請求したりできるわけではありません。
約3,000円ではなく「35分で約3,000円」と考える
患者単価だけを見ると、
柔整と鍼灸を組み合わせれば約3,000円になる
と考えられます。
しかし、一人治療院の経営では、施術にかかる時間も一緒に見なければなりません。
例えば、
- 柔整施術:約20分
- 鍼灸施術:約15分
- 合計:約35分
とします。
約3,037円を35分で得る場合、1時間あたりに単純換算すると、
3,037円÷35分×60分=約5,206円
です。
時間単価は約5,200円となります。
ここには、受付、会計、カルテ記載、清掃、請求業務などの時間を入れていません。
患者様の入れ替えに5分必要であれば、実際に使用する時間は40分になります。
施術後に療養費支給申請書、カルテ、施術録などを確認する時間も必要です。
返戻や保険者からの照会があれば、さらに事務作業が発生します。
そのため、実際の時間効率は、35分だけで計算した約5,200円よりも低くなる可能性があります。
売上と利益も同じではない
1時間あたり約5,200円という数字も、利益ではありません。
院を運営するには、さまざまな経費がかかります。
- 家賃
- 水道光熱費
- 鍼や消耗品
- 電療機器などの設備費
- システム利用料
- 広告費
- 通信費
- 会計や請求にかかる費用
- 税金や社会保険料
- 移動を伴う場合の交通費
一人院では人件費が少なく見えても、院長自身の労働時間がかかっています。
自分の人件費をゼロとして計算すれば、利益が出ているように見えるかもしれません。
しかし、院長が長時間働かなければ成立しない経営は、体調を崩したときや年齢を重ねたときに続けられなくなる可能性があります。
患者単価だけでなく、
院長が何分働き、経費を差し引いた後にいくら残るのか
まで確認する必要があります。
一人治療院で最も貴重なのは院長の時間
複数の施術者がいる院であれば、ベッド数やスタッフ数を増やして売上を拡大できます。
一人治療院では、院長自身が施術できる時間に上限があります。
1日8時間働くとしても、すべてを施術時間にはできません。
- 開院準備
- 受付
- 電話対応
- 会計
- カルテ
- 請求業務
- 清掃
- ホームページやSNSの更新
- 経理
- 予約管理
なども院長が行います。
一人院では、院長の1時間が売上の上限を決めます。
そのため、
何を追加すれば患者単価が上がるか
だけでなく、
自分の1時間を、どれだけの価値と売上に変えられているか
を見る必要があります。
患者様一人の単価が上がっても、施術時間も同じ割合で増えれば、時間単価はそれほど上がらないことがあります。
患者数を増やして成立させる経営もある
時間単価が低いのであれば、患者数を増やして売上を作る方法もあります。
複数の施術者とベッドを用意し、一定時間に多くの患者様へ対応する。
訪問施術で、同じ高齢者施設にいる複数の患者様へ効率的に施術する。
スタッフを採用し、院長一人の時間に依存しない仕組みを作る。
このような経営モデルもあります。
高齢者施設への訪問施術や、多くの患者様へ対応すること自体に問題があるわけではありません。
患者様ごとに施術の必要性があり、制度上の要件を満たしたうえで、適切に運営されている院もあります。
ただし、一人で施術、移動、記録、請求まで行う場合は、患者数を増やすことにも限界があります。
件数を増やして売上を作る経営を選ぶなら、
- 1日に何人まで対応できるのか
- 移動時間はどのくらいか
- 記録や請求に何時間必要か
- 体力的に継続できるのか
- 制度変更が売上へ与える影響はどのくらいか
まで考える必要があります。
私は保険を組み合わせるより、自分の時間の価値を上げたい
柔整と鍼灸を組み合わせて患者単価を上げることを、否定するつもりはありません。
双方の支給要件を満たし、患者様に必要な施術を行った結果として、柔整と鍼灸の両方を扱うことはあります。
ただ、私は経営を考えるとき、
何を算定すれば単価が上がるか
だけを追い続けるより、
自分の35分で、患者様へどれだけの価値を提供できるか
を考えたいと思っています。
自分の施術時間、技術、説明、経験、専門性を組み合わせ、患者様が自費でも選びたいと思える施術を作る。
その方が、一人治療院の経営には合っていると考えているからです。
35分8,000円なら時間単価は約13,700円
仮に、自費施術を35分8,000円に設定した場合、1時間あたりの単純な時間単価は、
8,000円÷35分×60分=約13,714円
です。
先ほどの保険施術モデル約5,200円と比較すると、大きな差があります。
しかし、
それなら自費料金を8,000円にすればよい
という単純な話ではありません。
料金表に8,000円と書いただけでは、患者様に選ばれません。
35分8,000円を患者様に選んでもらうには、
- どのような悩みに対応するのか
- どのような施術を行うのか
- なぜその施術が必要なのか
- 院長にどのような経験や専門性があるのか
- ほかの院と何が違うのか
- 施術後にどのような説明を受けられるのか
- 料金はいくらで、追加料金はあるのか
- 誰に向いていて、誰には向いていないのか
を伝える必要があります。
技術だけでなく、説明、患者心理、ホームページ、予約導線、院長への信頼までそろって、初めて自費料金を選んでもらえます。
自費は時間を短くして高く売ることではない
自費施術の目的を、短時間で高い料金を取ることだけにしてはいけません。
患者様が求めているのは、施術時間の長さだけではありません。
- 自分の話を理解してもらえる
- 身体の状態を分かりやすく説明してもらえる
- 施術方針に納得できる
- 必要以上の通院を勧められない
- 自分の悩みに合った提案を受けられる
- 安心して相談できる
といった価値も含まれます。
35分8,000円であれば、35分の中で患者様に何を提供できるのかを明確にする必要があります。
自費とは、保険より高い料金を付けることではありません。
院長が提供する価値と必要な時間を考え、自分で料金を設計し、その理由を患者様へ説明することです。
大きな違いは価格決定権にある
保険施術と自費施術の大きな違いは、単価だけではありません。
自分で価格を決められるかどうかです。
令和8年度の柔道整復療養費改定では、打撲・捻挫の後療料が550円へ引き上げられた一方、2部位目は80%で算定する逓減が導入されました。
鍼灸療養費では、2術併用の施術料が1,820円へ引き上げられた一方、同一患者への月16回目以降の施術について、施術料、訪問施術料、電療料を50%で算定する仕組みが設けられました。
施術所が料金や逓減率を決めたわけではありません。
制度が変われば、院の経営条件も変わります。
自費施術では、何でも自由にしてよいわけではありませんが、施術内容、時間、経費、専門性などをもとに、自院で料金を設計できます。
料金を自分で決められることは、値上げできるという意味だけではありません。
患者様へ提供する価値と、院を継続するために必要な利益を、自分で考えられるということです。
保険を否定せず、保険だけに依存しない
療養費制度は必要です。
制度があることで、患者様の経済的負担を抑えながら、必要な施術を受けられる場合があります。
保険施術を利用する患者様や、保険中心で経営している院を否定する必要もありません。
柔整と鍼灸を適切に組み合わせるハイブリッド型の院も、一つの経営方法です。
問題は、料金も算定ルールも自分で決められない制度に、経営のすべてを預けることです。
一人治療院ほど、
- 制度改定で単価が変わったらどうなるか
- 逓減の条件が変わったらどうなるか
- 患者数を増やせなくなったらどうなるか
- 院長が長時間働けなくなったらどうなるか
を考えておく必要があります。
保険をやめるか、続けるかという二択ではありません。
保険制度を適切に利用しながら、自分で料金設計できる自費施術をもう一つの柱として育てる方法があります。
【集客一人のひとりごと】何を足すかより、35分の価値を考えたい
柔整だけでは患者単価が低い。
それなら鍼灸を加えよう。
さらに別のメニューも加えよう。
この考え方で、患者単価を上げることはできます。
しかし、施術を追加するほど必要な時間も増えるのであれば、時間単価がどこまで上がったのかも確認しなければなりません。
私は、
次は何を算定すれば単価が上がるだろう
と考え続けるより、
自分の35分に、どれだけの価値を作れるだろう
と考えたい。
保険の組み合わせを否定しているのではありません。
ただ、一人で使える時間には限界があります。
その限られた時間の価値を高め、自分で料金を設計し、その料金に納得した患者様に選んでもらう。
私は、そのための専門性、説明、ホームページ、信頼を作る方に時間を使いたいと考えています。
まとめ|患者単価だけでなく院長の時間単価を見る
柔整2部位に後療、温罨法、電療を行い、鍼灸2術を加えたモデルでは、療養費の合計は約3,037円です。
35分の施術として単純換算すると、1時間あたり約5,200円になります。
しかし、実際には受付、会計、カルテ、請求、清掃などの時間と、院を運営する経費がかかります。
そのため、患者単価約3,000円だけを見て、経営が成り立っていると判断することはできません。
一人治療院の院長が見るべきなのは、
- 患者単価
- 施術時間
- 施術前後の業務時間
- 1時間あたりの売上
- 経費を差し引いた利益
- 制度変更による影響
- 自分で価格を決められる割合
です。
保険施術を否定する必要はありません。
患者数を増やして成立させる経営も、柔整と鍼灸を適切に組み合わせる経営もあります。
ただし、一人院では院長の時間に上限があります。
保険だけに依存せず、自分で料金を設計できる自費という柱を持つ。
そして、その料金を患者様に選んでもらえるだけの専門性、説明、ホームページ、信頼を作る。
一人治療院の売上を決めるのは、患者数だけではありません。院長の1時間を、どれだけの価値に変えられるかです。
📝 この記事を書いた人

集客一人:飯沼啓介(臨床の現場からWEBマーケティングへ)
柔道整復師・鍼灸師
20年間の臨床歴とグループ院の経営経験を生かして、現在兵庫県明石市で完全自費の「西新町鍼灸整骨院」を2026年4月に開院。
得意なパソコンスキルを活かして「どうすれば本当に必要としている患者さんに届くのか?」を突き詰めた結果、広告に頼る前に“検索者の不安を網羅するホームページの仕組み”を自ら作り上げることに成功。
現在はその実体験とノウハウをもとに、現場の院長が自力で集客を立て直すためのリアルなプロセスをこのブログで全公開しています。


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